レコードジャケットの魅力 ~LPジャケットは30センチ四方の芸術品

サブスクで音楽を聴くことが定着し、「CDが売れなくなった」と嘆かれるようになった近年。

その一方で、数年前から再評価されているアナログレコードの人気は衰え知らず。
「温かみのある音」などと表現されることの多いレコード特有のサウンドに魅了された音楽ファンも年々増えているようです。

(もちろん、レコードの音がCDよりも優れているという話ではありません。あくまでも好みの問題だし、感じ方も人それぞれだと思いますので)

そして、レコードの魅力を語る上で外せないのが、ジャケットの存在。
絵画やポスターと同じような感覚で、ジャケットのデザインに惹かれてレコードを購入している方も多いのではないかと。なんてったって「ジャケ買い」という言葉があるくらいですからね。

ちなみに「ジャケ買い」には、前述したジャケットの絵や写真を目当てに買うパターンと、ジャケットのアートワークから音楽性を推測して購入するパターンがあります。

90年代半ばくらいまでは、ジャケットのイラストやバンドのロゴ、アルバムタイトルの書体、参加ミュージシャンや制作者のクレジットなどから、どのような音楽なのか見当をつけてレコードを購入することが多々ありました。賭けみたいなものですが、当時は試聴できるレコード屋なんて皆無に等しかったので。

ネットで簡単に楽曲を確認することができる時代に生まれた若い世代の方には想像しにくいかもしれませんね。

でも、そうやって買い続けたレコードの中には、「おそらく、一生聴き続けられる」と思えるような優れた作品もたくさんありました。

それらの名作に出会えたのは、魅力的なジャケットのおかげです。

目次

約30センチ四方のLPジャケット

こちらは、人気ラッパーのコモンが2005年に発表した『Be』のLPとCDのジャケットです。カニエ・ウェストをプロデューサーに迎えて制作された大ヒット作ですね。

 

CDのジャケットよりもLPの方が大きいことは、画像をご覧いただければ一目瞭然。あふれんばかりの笑顔がプリントされた『Be』のジャケットを自室に飾りたいと思った際に、約30センチ四方のLPジャケットを選ぶ方もたくさんいらっしゃることでしょう。

(リビングやリスニングルームにLPのジャケットを立てかけたSNSの投稿を目にすることも、珍しくありませんので)

部屋に飾りたいレコードジャケット

■THE LAFAYETTE AFRO-ROCK BAND 『MALIK』 (1974)

「お気に入りのレコードジャケット」というテーマを聞くたびに、真っ先に浮かんでくるのがこのLP。

 

フランスを拠点に活動していたTHE LAFAYETTE AFRO-ROCK BANDの2ndアルバム。PUBLIC ENEMYやアイス・キューブ、ジェイ・Z等、数多くのヒップホップ・アーティストの楽曲にサンプリングされた「Darkest Light」を収録した人気作です。

 

このアルバムを初めて入手したのは、90年代中頃。インパクトの強いアフロヘアーの女性の表情に惹かれ、1993年に再発された新品のLPを購入しました。

 

画像は、後に入手した1976年プレスのMakossa International盤(M2311)。フランスのAmerica Recordsから1974年に出たオリジナル盤(AM 6137)から2年遅れて発売されたUS盤です。

オリジナル盤のジャケットとは、背景の色やアルバムタイトルのデザインが異なりますが、個人的にはUS盤の方が断然好み。

■ALICE CLARK 『ALICE CLARK』 (1972)

ソウルシンガーのアリス・クラークが、1972年にMainstream Records(※)から発表した唯一のフルアルバム。

「Never Did I Stop Loving You」や「Don’t You Care」を収録した人気盤で、憂いを帯びたアリス・クラークの表情が印象的なジャケットも秀逸です。

発売当時のセールスが思わしくなかった『ALICE CLARK』が脚光を浴びたのは、90年代以降。
レアグルーヴやフリーソウルといったムーブメントによって再評価された本作のオリジナル盤は、高値で取引されています。

このLPのジャケットやラベルには参加ミュージシャンのクレジットが無く、長らく謎につつまれていました。

しかし、2017年に放送されたTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』の番組内で公開されたバーナード・パーディのインタビューで、自身がドラムを叩き、ボブ・ブッシュネルがベースを弾いていたことが判明。マニアの間で話題になりました。

なお、インタビューを担当したのは、RHYMESTERのDJ JIN氏とSCOOBIE DOのオカモト“MOBY”タクヤ氏。

※70年代に数々の優れたジャズ作品を世に送り出したレーベルとして知られるMainstream Recordsですが、『ALICE CLARK』のようなソウルアルバムや、ロックバンドの作品も制作しています。

ソロデビュー前のジャニス・ジョプリンがヴォーカリストを務めていたBIG BROTHER AND THE HOLDING COMPANYの1stアルバムや、テッド・ニュージェントが在籍していたTHE AMBOY DUKESの初期作品も、Mainstream Recordsからのリリース。

 

2021/09/03【追記】

当コラムを読んでくれたRHYMESTERのDJ JIN氏から「2019年にリリースされた『ALICE CLARK』の再発LP(WWSLP19 / MRL362)に付属しているブックレットにパーソネルが記載されていて、ベースを弾いているのがゴードン・エドワーズだったことが発覚」という連絡をいただきました。

2017年のインタビューにおけるバーナード・パーディ氏の発言は、記憶違いだったようです。
リサーチ不足で事実と異なる情報を掲載してしまいました。謹んでお詫び申し上げます。

2019年の再発時に発表された『ALICE CLARK』の参加メンバーは以下になります。

Alice Clark – Vocal
Cornell Dupree – Guitar
Earl T. Dunbar – Guitar
Ernie Hayes – Organ
Paul Griffin – Fender Rhodes, Piano
Gordon Edwards – Bass
Bernard Purdie – Drums
Joe Newman – Trumpet
Sonny Cohn – Trumpet
Charles Fowlkes – Baritone Sax

■ELIS REGINA 『ELIS REGINA IN LONDON』 (1969)

60~70年代にかけて国民的な人気を誇ったブラジル人女性シンガー、エリス・レジーナ。

(ブラジルポルトガル語の発音に近いのは「エリス・ヘジーナ」ですが、国内盤には「エリス・レジーナ」表記が使用されています)

 

1982年に36歳の若さでこの世を去るまでトップを走り続けたエリスの代表作といえるのが、この『IN LONDON』。

ロンドンのPhilips Recordsからオファーを受け、ホベルト・メネスカル等のブラジル人ミュージシャンと、イギリス人のピーター・ナイト率いるオーケストラと共に制作された本作は、わずか2日間で録音されています。

 

最高傑作との呼び声の高い『IN LONDON』ですが、本国ブラジルで発売されたのは、エリス没後の1982年。ヨーロッパ向けに制作されたアルバムとはいえ、意外な気がします。

 

エリスの笑顔に惹かれて再発盤のLPをジャケ買いしたのは、90年代後半。

以降、国内再発盤や1982年プレスのブラジル盤を入手しましたが、十数年前にやっとUKオリジナル盤に遭遇。高額でしたが、コーティング加工されたジャケットの美しさに魅了されて購入しました。

上が2001年に出た国内再発盤(UM3J 3004)で、下がUKオリジナル盤(SBL 7905)。ジャケ写の画質が全く違います。エリスの表情やシャツのドット、空(雲)をご覧ください。

ジャケットに記載されたアルバムタイトル及び曲名の色や書体も異なります。

■CEDRIC ‘IM’ BROOKS 『UNITED AFRICA』 (1978)

THE MYSTIC REVELATION OF RASTAFARIやTHE SKATALITESのメンバーとして知られるジャマイカ出身のサックス奏者、セドリック・イム・ブルックスが1978年に発表した『UNITED AFRICA』。

レコード店ではレゲエのコーナーに置かれることが多いアルバムですが、ジャズやアフリカンミュージックなどの要素を取り入れたサウンドは、レアグルーヴのリスナーからも人気です。

個人的に最も針を落とす回数が多いのは、B面1曲目の「Silent Force」。

そしてTHE ABYSSINIANSの名曲「Satta-Masa-Ganna」のカバーも最高(A面1曲目)。
レゲエ映画の金字塔『ROCKERS』のサントラ盤に収録されたTHIRD WORLDのカバーバージョンが有名ですね。

 

2014年にアナログ盤が再発された際に話題を呼んだ『ONE ESSENCE』(1977年)も人気の高い作品ですが、ジャケットの魅力をテーマにした記事ということで、今回はこちらを選出させていただきました。

内容もジャケットも素晴らしい『UNITED AFRICA』を、是非ともレコードで!

■MILES DAVIS 『BITCHES BREW』 (1970)

イラストのジャケットも紹介しておきましょう。

 

マイルス・デイヴィスが1969年8月に録音し、翌年3月に発表した2枚組の大作『BITCHES BREW』。

『KIND OF BLUE』(1959年)がアコースティック時代を代表する作品であるならば、エレクトリック期を代表するのがこの『BITCHES BREW』です。

 

前作『IN A SILENT WAY』(1969年)と共にジャズロック/フュージョンの先駆的な作品として知られる本作は、ロックファンから絶大な支持を受け、大ヒットを記録。今なお世界中のリスナーに聴き継がれる歴史的名盤です。

 

エレクトリック楽器を導入した『MILES IN THE SKY』(1968年)から、活動休止期間(1975~1980年)の直前に行われた大阪フェスティバルホールの昼夜公演を収録した『AGHARTA』と『PANGAEA』までの、いわゆる「電化マイルス」と呼ばれる時代に発表されたアルバムのアートワークは、それまでのジャズ作品とは趣の異なるものが多く、革新的なサウンドと共に高い評価を得ています。

 

SANTANAやハービー・ハンコック等のジャケットを手掛けたアブドゥル・マティ・クラーワインによる『BITCHES BREW』のジャケットは、個人的に特に好きな作品。『AGHARTA』と共に部屋に飾りたいマイルスのレコードです。

 

『BITCHES BREW』の発売から5ヶ月後。マイルスは、ジミ・ヘンドリックスやジョニ・ミッチェル、THE DOORS、THE WHOといった錚々たる面々が名を連ねた伝説のロックフェス『ワイト島フェスティバル』(1970年8月26~30日)の4日目に出演。

この日のパフォーマンスを収録したドキュメンタリー映像作品『MILES ELECTRIC: A DIFFERENT KIND OF BLUE』が、2004年にDVDでリリースされています。未見の方は是非。

 

 

 

執筆:五辺宏明