レア盤だけじゃない!定番のアナログレコードも大人気!
『RECORD STORE DAY』がスタートした2008年ぐらいから少しずつ再評価されているアナログレコード。
米国では2020年にCDの売り上げを上回り、国内でも年を追うごとに人気を高めています。
一般メディアで「レコードブーム」という文字を目にする機会も増えました。
中古レコード店で熱心にエサ箱を掘る若者を見かけることも、もはや珍しくありません。
お気に入りのバンドのニューアルバムや過去作品の復刻盤など、新品のレコードを買っていた新しい購買層が、20年以上前に製造された年代物のレコードにも触手を伸ばしているのでしょう。
レコードブームと言われて久しい昨今、ふと、音楽ファンだったら誰でも知っているような歴史的名盤が、思いのほか品薄であることに気づきました。
全く無いということではありませんが、10年前だったらどの中古レコード店に行っても置いてあったような大ヒット作を見かけないことが多々ありまして。
ネットでAmazonやレコード店のサイトを覗いてみても、中古はおろか、再発盤の在庫も切れていることがよくあります。
目次
以前は苦も無く入手することができた名盤が、今では・・・
40代以上の音楽ファンの中には、CDの売り上げが最盛を極めた90年代後半にも、クラブDJを中心にアナログレコードがもてはやされていたことをご存じの方も多いことでしょう。
アナログ盤でプレイすることが当たり前だった当時のDJやトラックメイカー、コアなリスナーは、ヒップホップのサンプリングソースや、レアグルーヴやフリーソウルにカテゴライズされた60~80年代のジャズやソウル、ロック、ワールドミュージック等の希少盤を求めて、何軒ものレコード店に足繁く通っていました。
一度買い逃すと、次にいつ出会えるかわからないそれらのレア盤と共に店頭に並んでいたのが、ジェームス・ブラウンやスティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、マイケル・ジャクソンといった著名アーティスが世に送り出した数々の名盤です。
もちろん当時も、それらの初版が高値で取引されるケースもありましたが、2ndプレス以降の後発盤にも音質の良いものがたくさんあるし、「とにかくレコードで聴ければよい」と思えば、リーズナブルな廉価盤や国内盤LPを難なく入手することができました。
そういった定番のレコードを以前よりも見かける機会が少なくなったのは、ここ数年のブームによってレコードで音楽を聴く楽しさを知った若い世代や、それらの作品をCDで聴いてきたベテランの音楽ファンが、歴史的名盤のLPを買い求めるようになったことが一因かもしれません。
ジャケットから取り出したレコードをターンテーブルに乗せて針を落とし、ライナーノーツ(解説)やジャケットに記載されたクレジットを眺めながら音楽を聴く心地よさに魅了された人々が、お気に入りの名盤をレコードで聴きたくなるのは当然のことだと思います。
そして、見逃せないのがSNSの存在。
特に2016年の時点で5億人のユーザーを獲得したインスタグラムの影響は絶大で、「#レコード」や「#vinyl」といったハッシュタグで検索すると、LPジャケットを掲げた音楽ファンの写真が数限りなく現れます。
それらの投稿を見て「私も名盤のレコードを抱えてインスタにアップしたい」と考えるようになった音楽ファンも多いのではないかと。30センチ四方のLPは存在感がありますからね。
(小さなCDのジャケットを持って自撮りしてもインスタ映えしなそうですし)
そんなわけでレア盤のみならず、定番レコードの人気も年々上昇しているようです。
レコードで聴きたい名盤
■MARVIN GAYE 『WHAT’S GOING ON』 (1971)
リリースから今年で50年を迎えた不朽の名作『WHAT’S GOING ON』。
マーヴィン・ゲイ初のセルフプロデュース作品であり、Motown Records初のトータルコンセプトアルバムとしても知られる本作は、2020年に改訂された米『Rolling Stone』誌の「歴代最高のアルバム500選」で1位を獲得しています。
50周年を記念してミシガン州知事が、タイトル曲のシングルが発売された1月20日を「“What’s Going On”の日」に制定したことも話題になりました。
(ミシガン州は、Motown Recordsの発祥地です)
本作に収録された音源よりも前にマスタリングされた未発表音源として知られ、2017年にアナログ化した『WHAT’S GOING ON (Original Detroit Mix)』の再プレス盤が7月28日に発売されますが、まずは正規の『WHAT’S GOING ON』を聴いていただきたいものです。
■DONNY HATHAWAY 『LIVE』 (1972)
1972年に発表されたダニー・ハサウェイのライブアルバム。A面はハリウッド(1971年8月)、B面はニューヨーク(1971年10月)で収録されました。
星の数ほど存在する「What’s Going On」のカバーの中でも、このLPの冒頭を飾るライブテイクが特に人気が高いことは説明するまでもないでしょう。
続くA面2曲目の「The Ghetto」、そしてA面4曲目に収録された「You’ve Got A Friend」(キャロル・キングのカバー)の高揚感といったら!
熱狂的なオーディエンスの歓声や大合唱を聴くたびに「この場所にいたかった」と思わされるのは私だけではないはず。
会場の熱気をそのままパッケージしたような本作を、アナログレコードで所有したくなる音楽ファンが世界中にいることは容易に想像できます。
■ARETHA FRANKLIN 『AMAZING GRACE』 (1972)
ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で収録されたアレサ・フランクリンのゴスペル・ライブ盤。
バーナード・パーディ(ドラム)、チャック・レイニー(ベース)、コーネル・デュプリー(ギター)といった凄腕ミュージシャンと聖歌隊を率いて熱唱する29歳のアレサ。
史上最高のゴスペル・アルバムと称えられる本作は、300万枚以上の売り上げを記録しています。
「Precious Lord, Take My Hand」とメドレーで披露された「You’ve Got A Friend」は、前述したダニー・ハサウェイ版と双璧の名カバー。
アルバムの発売翌年に公開が予定されるも、未完のまま頓挫していた幻のドキュメンタリー映画が2018年に完成。日本でも今年の5月から劇場公開されています。
海外では既にBlu-ray / DVD化していますが、リージョンコードや映像方式の問題で再生できないことも。国内盤がリリースされることを祈りましょう。
■ROY AYERS UBIQUITY 『EVERYBODY LOVES THE SUNSHINE』 (1976)
レアグルーヴ・ムーブメントや、ヒップホップのトラックにサンプリングされたことで、90年代以降に再評価された70年代のロイ・エアーズ作品。
中でも本作のタイトル曲は、メアリー・J. ブライジ「My Life」を筆頭に数多くの楽曲にサンプリングされた人気曲です。
エリカ・バドゥを迎えて制作されたセルフカバー版(2004年)で、この曲を知った方もいらっしゃるかもしれませんね。
日本のブラックミュージック愛好家からも絶大な支持を受けるロイ・エアーズは来日回数も多く、私も何度か観に行きましたが、いずれも一番盛り上がったのは「Everybody Loves The Sunshine」でした。
ちなみに、画像のサインは、ロイ・エアーズが2006年に来日した際に入手したものです。
■JOHN COLTRANE 『A LOVE SUPREME』 (1965)
ジャズの名盤も人気です。
1965年に発表された『至上の愛』という邦題で知られるジョン・コルトレーンの最重要作。録音日は1964年12月9日。
(アレサ・フランクリン『AMAZING GRACE』の邦題も『至上の愛』です)
4つの組曲から構成された本作は、黄金カルテットと呼ばれたコルトレーン(テナーサックス)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)の4人が到達した60年代ジャズの金字塔として、今なお世界中の音楽ファンに愛され続けています。
米『Rolling Stone』誌の「歴代最高のアルバム500選」2020年改訂版でも、『A LOVE SUPREME』は66位に選出されました。
なお、100位以内にランク入りしたジャズ・アルバムは、マイルス・デイヴィスの『KIND OF BLUE』(31位)と『BITCHES BREW』(87位)、そして『A LOVE SUPREME』の3作品のみ。
本作を制作する為に行われた2日間のセッションを完全収録して、2015年にCDでリリースされた『A LOVE SUPREME: THE COMPLETE MASTERS』も、翌年アナログ化しています。
アーチー・シェップ(テナーサックス)とアート・デイヴィス(ベース)を迎えた6人編成版「Part I – Acknowledgement」等、貴重な未発表音源を収録した3枚組LP。
マニア向けではありますが、アルバム・バージョンも収録されているので、聴き比べてみるのも良いかもしれませんね。
執筆:五辺宏明