日本のレコードが海外で人気な理由、帯(Obi)の魅力

世界的に人気が高まっているアナログレコード。

数十年前に生産されたレコードの中には貴重なものも多く、特に高値で取引されるのが、欧米のアーティストが自国で制作したオリジナル盤です。音質の良さと希少価値を考えると、初版がプレミア化するのは当然のことでしょう。

しかし、欧米アーティストの作品を日本でプレスした、いわゆる日本盤(国内盤)の中にも、海外で人気を集めているものがたくさんあります。

さまざまな要因がありますが、一番の理由は帯の存在。CDが普及する以前に発売されていた日本盤のLPには、カタカナ表記のアーティスト名や邦題が記載された帯が、ジャケットの端に巻かれていました。

(7インチのシングル盤やコンパクト盤にも帯付きのものがあります)

CDにも受け継がれた帯という文化は日本独自のもので、基本的に他国のレコードには付いていません。

まれに帯が付いている海外盤を見かけることがありますが、おそらく日本の帯付きレコードに触発されたものでしょう。

ここ数年来のレコードブームにより、帯付きレコードの人気も上昇。

ブーム以降にアナログ盤を制作するようになった国内アーティストの中にも帯付きのLPをリリースしている方がいますし、旧譜を復刻したレコードに独自の帯を付けて販売されるケースも見られるようになりました。

海外のコレクターの間でも帯の存在はすっかり定着していて、レコードショップやオークションサイトで「with OBI」や「Japanese OBI」、「OBI-strip」といった表記を見かけることも珍しくありません。

異国の文字が記載された帯は、海外コレクターの収集意欲を刺激するのでしょうね。

 

ということで、海外からの需要が非常に高い帯付きの日本盤は、買取価格も上がりやすいです。
コンディションが良く、ライナーノーツ(解説書)やポスター等の付属品が全てそろっていれば、さらに査定額がアップするかもしれません。

 

レコードコレクターの皆さま、帯付きの日本盤を手放す際には、ぜひとも横浜レコードにご連絡を。

 

目次

動画再生

今回の一曲はセックス・ピストルズ/サブミッションです。

是非お聴きになりながら読み進めていただければ幸いです。

同じアルバムでも異なる帯が存在する

SEX PISTOLS 『NEVER MIND THE BOLLOCKS HERE’S THE SEX PISTOLS』 (1977)

1977年に発表されたSEX PISTOLS唯一のスタジオアルバム。言わずと知れたパンクロックの金字塔ですね。

こちらは、UKオリジナル盤(V 2086 / SPOTS 001)と同じ1977年に日本コロムビアから発売された国内初版LPです。

『勝手にしやがれ!!』という邦題で、品番はYX-7199-AX。

実は、同じ品番の日本コロムビア盤でも、数種類の異なる帯が存在します。

 

私が所有している日本コロムビア盤に付いているのは、「黒インク/100周年記念ロゴ入り」の初回帯。
マニアの間で「黒ぶっかけ帯」と呼ばれるこの初回帯の特徴は以下の3点。

①帯上部のインクの部分が黒色。

②帯下部に「100 YEARS OF RECORDED SOUND 1877-1977」と記されたロゴがあること。

③帯裏面の下部に「プレゼント付きアンケート・ハガキが入っています」と記載されていること。

 

初回以降の帯は、「青ぶっかけ帯」と呼ばれるインクの部分が青いものや、100周年記念ロゴがないものがあるので、日本コロムビア盤をお持ちの方は確認してみてください。
(初回の黒ぶっかけ帯よりも、青ぶっかけ帯の方が入手しにくいかも)

さらに、80年代に再発されたビクター盤(1982年:VIP-6986)、東芝EMI盤(1986年:25VB-1068)、ヴァージン・ジャパン盤(1988年:VJL-110)には、それぞれに異なる帯が付いています。

(他の会社から発売されているので当然ですが)

なお、2007年にEMIミュージック・ジャパンから発売された30周年記念盤(TOJP-60172)のジャケットには、日本コロムビア盤を復刻した帯が巻かれていますが、いわゆる輸入盤国内流通仕様です。UK盤に帯と解説書を付けて販売されたものなので、厳密には日本盤ではありません。

 

個人的な話になりますが、生まれて初めて買った輸入盤レコードは、80年代に出た『NEVER MIND THE BOLLOCKS HERE’S THE SEX PISTOLS』のUK再発盤(OVED 136)で、日本コロムビア盤とは曲順、収録曲数が異なります。

UKオリジナル盤と同じ曲順で収録されているのは日本コロムビア盤の方ですが(※)、実際にこのアルバムを聴きたいと思った際にターンテーブルに乗せるのはUK再発盤です。

聴き慣れた曲順であること、そして初めて入手した輸入盤ということもあり、再発盤とはいえ思い入れの強いレコードなので。

それでも、中古レコード店でコンディションの良い初回帯付きの日本コロムビア盤を見つけた瞬間、買わずにはいられませんでした。

レコードコレクターの皆さまには、この気持ちをわかっていただけるのではないかと。

私のような収集癖を持つ人間が世界中に存在するからこそ、帯付きの日本盤は人気があるのでしょうね。

 

※補足になりますが、『NEVER MIND THE BOLLOCKS HERE’S THE SEX PISTOLS』のUKオリジナル盤には、11曲入りのLPと共に「Submission」を収録した7インチ(片面プレス)が封入されています。しかし、日本コロムビア盤には7インチが付属されていないため、「Submission」を聴くことができません。
前述したUK再発盤は「Submission」を加えた12曲入りのLPです。

 

コレクター魂をくすぐる帯付きレコード

■ケリー・パターソン 『処女航海』

KELLEE PATTERSON 『MAIDEN VOYAGE』 (1973)

バリー・ホワイト「I’m Gonna Love You Just A Little More, Baby」のカバーが人気の女性シンガー、ケリー・パターソンのデビュー・アルバム『MAIDEN VOYAGE』。

Black Jazz Recordsが制作した本作の日本盤は、東宝芸音から発売されています(YX-6070)。

ピアニストのジーン・ラッセルと、パーカッショニストのディック・ショリーが立ち上げたBlack Jazz Recordsの活動期間は5年程度で、その間に発表された作品はわずか20タイトル。

しかしながら、スピリチュアル・ジャズやレアグルーヴの愛好家から、今なお高い支持を受けるレーベルです。

本作はこれまでにも何度か再発されていて、昨年もUSリマスター盤に帯を付けた輸入盤国内流通仕様(RGM-1104 / PLP-6775)が発売され、話題を呼びました。

アルバム・タイトルに起用された「Maiden Voyage」は、「処女航海」という邦題で知られるハービー・ハンコックの代表曲。今回紹介した日本盤でも同じ邦題が使用されています。

 

■ロニー・リストン・スミス 『夢幻』

LONNIE LISTON SMITH & THE COSMIC ECHOES 『REFLECTIONS OF A GOLDEN DREAM』 (1976)

鍵盤奏者のロニー・リストン・スミス率いるTHE COSMIC ECHOESが1976年に発表した『REFLECTIONS OF A GOLDEN DREAM』。

こちらは、『夢幻』という邦題でリリースされた日本盤LP(RVP-6076)。

発売元はRVCですが、帯の上部に原盤を制作したFlying Dutchman Recordsのロゴマークが使用されています。

マニア心をくすぐる秀逸なデザインですね。

Flying Dutchman Recordsを設立したのは、名門Impulse! Recordsでジョン・コルトレーンやアルバート・アイラー、アーチー・シェップ等の傑作ジャズ・アルバムを世に送り出したプロデューサーのボブ・シール。

1969年にImpulse! Recordsから独立後、ロニー・リストン・スミスの諸作や、ギル・スコット・ヘロン、レオン・トーマス等、レアグルーヴ・ファンから人気の高い作品を数多く発表しています。

 

■メタリカ 『血染めの鉄鎚』

METALLICA 『KILL ’EM ALL』 (1983)

1983年に発表されたMETALLICAの1stアルバム。

キングレコード傘下のネクサスレコードからこの日本盤LP(K25P 438)が発売されたのは1984年。
原題は『KILL ‘EM ALL』ですが、本作の邦題は『血染めの鉄鎚』。ジャケットのデザインを見て、そのまま付けたのかもしれませんね。直訳はさすがに・・・(邦題もなかなかですけど)。

ちなみに、鉄鎚はハンマーと読みます。

帯にもふりがなが記載されているので、画像を拡大してご確認ください。

今や世界中のロック・ファンから絶大な支持を受けるモンスターバンドと化したMETALLICAですが、1stアルバムがリリースされた当時は「スラッシュメタルとかいう騒音みたいな音楽をやってるバンド」という扱いを受けていたようです。

私がリアルタイムでスラッシュメタルを聴くようになったのは80年代後半ですが、その頃でさえ「スラッシュなんか聴いてるの? あんなの音楽じゃないよ」などとメタル・ファンから蔑まれたことが何度もありましたので。

 

■スーサイダル・テンデンシーズ 『軍団宣言』

SUICIDAL TENDENCIES 『JOIN THE ARMY』 (1987)

アメリカ西海岸の生ける伝説、マイク・ミューア率いるSUICIDAL TENDENCIESの2ndアルバム『JOIN THE ARMY』の日本盤(28VB-1173)。

帯をご覧ください。『軍団宣言』という邦題、そしてバンド・ロゴの書体に似せたカタカナ表記の「スーサイダル・テンデンシーズ」を。

担当者の熱量をひしひしと感じます。

「ついに上陸! 日本デビュー・アルバム!」と帯に書かれているように、こちらが日本で初めて発売されたSUICIDAL TENDENCIESのレコード。

ウィキペディアによると『JOIN THE ARMY』が本国アメリカでリリースされたのが1987年6月9日。

東芝EMIからこの日本盤が出たのが1987年6月21日なので、わずか2週間程度のタイムラグで発売されたようです。

なお、1983年に発表された1stアルバム『SUICIDAL TENDENCIES』の日本盤(25EC-1005)が出たのは1987年8月21日で、こちらの発売元はクラウンレコード。

 

1stアルバムで聴かれるハードコアパンク色の強いサウンドに、スラッシュメタルの要素を加えた2ndアルバム以降、メンバーチェンジを繰り返しながら、テクニカル集団へと変貌を遂げたSUICIDAL TENDENCIESは、ラウドミュージック・シーンに多大な影響を与えながら、現在も精力的に活動を続けています。

「このロゴが入ったキャップを街中でよく見かけるから、ファッションブランドかと思ってた」という方もいらっしゃるかもしれませんね。この機会にSUICIDAL TENDENCIESの作品を聴いてみてください。

2003年からMETALLICAで活躍するロバート・トゥルージロ。そして今をときめくサンダーキャット。現代の音楽シーンを代表するといっても過言ではない2人のベーシストも、SUICIDAL TENDENCIESの元メンバーですから!

 

■山下達郎 『SPACY』

TATSURO YAMASHITA 『SPACY』 (1977)

最後は国内アーティストの作品を。

傑作1stアルバム『CIRCUS TOWN』に続く、山下達郎の2ndアルバム『SPACY』(RVL-8006)。

本作が発表されたのが1977年5月。

シュガー・ベイブの解散(1976年4月)から約1年というわずかな期間に、2枚の名盤を生み出しているのですから、脱帽せざるを得ません。

昨今のシティ・ポップ・ブームの影響により、若い世代からも人気の高い作品ですが、クラブシーンから支持を受けるようになったのはずいぶん前のことで、10年以上前から多くのDJ達が「Dancer」や「Love Space」をプレイしています。

今年の3月に永眠したドラマーの村上“ポンタ”秀一や、細野晴臣、坂本龍一、吉田美奈子といった凄腕ミュージシャンが参加した『SPACY』は、海外からも高評価。実際にレコード店で、本作のジャケットが表示されたスマホの画面を見ながらレコードを掘っている外国人客を何度か見かけたことがあります。

初回といわれる半透明の帯付きレコードは、今や入手困難な1枚となってしまいました。20年前だったら、どこの中古レコード店でもお手頃価格で買えたレコードなんですけどね。

 

どのレコードが、いつ値上がりするかわかりません。
繰り返しになりますが、帯付きレコードを手放す際には、横浜レコードにぜひご連絡ください。

 

執筆:五辺宏明

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