[7インチ]レコードコレクターやDJに人気のドーナツ盤

昨今、世界中のレコード愛好家から人気を集める7インチシングル。

世代を超えて愛される名曲や入手困難な7インチが次々と復刻され、新譜の7インチを制作するアーティストも増え続けています。

 

中古レコードの人気も高く、レア盤を求めて、ネットオークションやレコード店の新入荷情報を日々チェックしているDJやコレクターも少なくないはず。

 

音圧の高さや希少価値など、7インチがもてはやされる要因は多々ありますが、コンパクトなその大きさも魅力のひとつといえるでしょう。

 

直径30.48センチの12インチ/LPに比べ、17.78センチの7インチは、「これからレコードで音楽を聴いてみたい」と考える若い音楽ファンが手に取りやすいサイズなのかもしれません。

 

サイズの比較として、DE LA SOULの『A Roller Skating Jam Named “Saturdays”』のフランス盤12インチ(660114)と、ベルギー盤7インチ(TB 8276)を掲載。

7インチは、メンバーのサイン入りです(左からトゥルーゴイ、ポス、メイシオ)。

レコードでDJプレイするのが当たり前だった90年代。ヒップホップやハウス、テクノ等のDJがプレイするのは主に12インチでした。

 

しかし、7インチの人気が全くなかったかというと、そんなことはありません。

レゲエのセレクターは7インチが主流だったし、ソウルやファンクの7インチを自在に操るDJや、ロックンロール、パンク、ニュー・ウェイヴ等のレアな7インチを血眼になって探していたマニアも、少なからず存在しました。

 

LPや12インチと同様に、希少な7インチはいつの時代も高値で取引されています。

7インチの人気盤を手放す際には、ぜひとも横浜レコードにご連絡ください!

 

目次

今回の一曲

動画再生

ドーナツ盤(Large center hole)

ジェームス・ブラウンの名曲「Get Up, Get Into It, Get Involved」の7インチ(45-6347)。

 

こちらは、レコード盤の穴がLPよりも大きいタイプの7インチです。いわゆるドーナツ盤ですね。「7インチ」という単語を聞いてまず思い浮かべるのは、このタイプではないでしょうか。

 

大きな穴があいている理由は、かつて喫茶店やボウリング場などで見ることができたジュークボックスの存在。

内蔵された大量の7インチの中から、好きな曲を選んで聴くことができるジュークボックスという自動再生装置を、若い方はご存じないかもしれませんね。

そのジュークボックスで使用するために、大きな穴が必要だったようです。

 

なお、レコードプレイヤーでドーナツ盤を再生する際には、アダプターを使用します。

 

プッシュアウト・センター

こちらは、2009年に再発された『黄金の七人』の国内盤7インチ(THEP-120)。

イタリア映画『黄金の七人』のテーマ曲と、挿入曲「ロッサナのテーマ」をカップリングしたこの7インチは、オリジナル盤のジャケットやラベルを可能な限り再現した復刻盤ということで、大いに話題を呼びました。

 

『ルパン三世』の元ネタといわれる『黄金の七人』は、1965年10月に公開された犯罪コメディ映画で、イタリア映画音楽の巨匠として知られるアルマンド・トロヴァヨーリが手掛けたサントラ盤も人気があります。

 

フリッパーズ・ギターがテーマ曲を引用したことで、渋谷系が隆盛を極めた90年代以降に『黄金の七人』のサントラ盤を探しまくった音楽ファンも多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。

 

『黄金の七人』は日本でも1966年3月に劇場公開されていて、国内盤の7インチシングルも発売されています。

そして1966年10月に封切られた『続・黄金の七人/レインボー作戦』が、日本でも同年12月に公開。こちらも7インチシングルが発売されました。

スリーブをご覧ください。完全に峰不二子ですね。

さて、ここからが本題。

この『続・黄金の七人/レインボー作戦』のシングルはドーナツ盤ではなく、プッシュアウト・センターと呼ばれるタイプの7インチです。

アダプター無しで再生できるプッシュアウト・センターは、呼び名の通り、中央部分を押して取り外せるので、ドーナツ盤と同様にジュークボックスで使用することも可能です。

 

続いてこちらの画像をご覧ください。『黄金の七人』の7インチです。

私が入手した中古盤は、センター部分が外れていました。このように折ってしまえば、ドーナツ盤として使用できます。

 

個人的には小穴のものよりもドーナツ盤の方が使いやすいと思っているので、センター部分が無くても問題ありません。

それでも、「できれば、折れていないものを入手したかった・・・」というのが本音です。発売された当時の状態で所有したいと思ってしまうのは、コレクター心理なのでしょうね。

 

UK盤のプッシュアウト・センターは、丸型のものが多いです。

シリータ・ライトがRita Wright名義で1978年に発表した『Love Is All You Need / Touch Me Take Me』のUK盤7インチ(UP 36382)。B面が人気ですね。

シリータ・ライトは、スティーヴィー・ワンダーの最初の奥さまです。

 

ちなみに、センターホールがLPと同じサイズの7インチも存在します(Small center hole)。

参考画像として、SUICIDAL TENDENCIESの『Possessed To Skate』のUK盤12インチ(VS 967-12)と、UK盤7インチ(VS 967)を掲載。

7インチは、マイク・ミューアのサイン入りです。

人気7インチを紹介

それでは、お気に入りの7インチを紹介。

7インチの記事ということで、厳選した7枚を選出いたしました。

■ザ・ドアーズ 『ハートに火をつけて』 (JET-1778)

THE DOORS

side-A. Light My Fire

side-B. The Crystal Ship

 

1967年7月29日に、米『Billboard』誌の週間シングル・ランキング1位を獲得した「Light My Fire」の国内盤7インチ。

「ハートに火をつけて」という邦題で知られるTHE DOORSの代表曲。説明不要の大ヒット曲ですね。

 

本来、「Light My Fire」は6分30秒の大作ですが、この7インチには2分52秒のシングル・バージョンが収録されています。

 

JET-1778という品番の国内盤7インチは2種類あって、こちらは2ndスリーブ。

2017年に全米シングル・チャート1位獲得から50年を記念して、国内1stスリーブ盤を復刻したEU盤(R7 560944)も発売されましたが、個人的には2ndスリーブの方が断然好み。

■ブラック・サバス 『惡魔の世界』 (SFL-1345)

BLACK SABBATH

side-A. Wicked World

side-B. Iron Man

 

日本独自のカップリングで発売されたBLACK SABBATHのシングル盤。

 

「Wicked World」は、デビュー曲「Evil Woman」のB面に収録された曲で、1970年2月に本国イギリスで発売された1stアルバム『BLACK SABBATH』には入っていません。

しかし、US盤の『BLACK SABBATH』には「Evil Woman」の代わりに「Wicked World」が収録されています。

 

日本盤の『BLACK SABBATH』はUK盤と同じ内容なので、「Wicked World」は未収録。そんな曲が、なぜシングルで発売されたのでしょうね。

 

B面は、1970年9月にリリースされた2ndアルバム『PARANOID』収録の「Iron Man」。BLACK SABBATHを代表する名曲です。こちらをA面にすれば良かった気が・・・。

■ボビー・ウーマックとピース 『110番街交差点』 (LLR-10300)

BOBBY WOMACK & PEACE

side-A. Across 110th Street

side-B. Hang on In There

 

日本でも劇場公開された『110番街交差点』(1972年)のテーマ曲。

1997年に公開されたクエンティン・タランティーノ作品『ジャッキー・ブラウン』のメインテーマにも起用された“ラスト・ソウルマン”ことボビー・ウーマックの名曲です。

 

こちらの国内盤7インチは、ヴァイナルと呼ばれる塩化ビニール素材のレコードです。多くの方がイメージするレコードの素材ですね。

 

一方、本国アメリカで製造された『Across 110th Street』の7インチは、ポリスチレンという発泡スチロールなどに使用される素材で製造されたスチレン盤と呼ばれるレコードです。

ヴァイナルよりも硬質で柔軟性に乏しいスチレン盤は割れやすく、溝が摩耗してノイズが出やすい傾向があるので、敬遠する方も少なくありません。

 

ヴァイナル・プレスであり、アートワークも秀逸な『110番街交差点』の国内盤7インチは、人気の高いレコードです。

手放す際には、横浜レコードにご連絡を!

■ザ・ウェイラーズ 『アイ・ショット・ザ・シェリフ』 (ILR-10719)

THE WAILERS

side-A. I Shot the Sheriff

side-B. Burnin’ and Lootin’

 

オリジナル・ウェイラーズのボブ・マーリー、ピーター・トッシュ、バニー・ウェイラーの3人が揃った最後のアルバム『BURNIN’』(1973年)の収録曲をカップリングした国内盤シングル。

 

『BURNIN’』がリリースされた翌年に、エリック・クラプトンが「I Shot the Sheriff」をカバーして全米1位を獲得したことをご存じの方も多いことでしょう。

 

私が所有するこの7インチは見本盤。そしてスリーブの左端にセロテープを剥がした跡があるので、おそらく有線かラジオ放送で使用されたレコードだったのではないかと。

 

有線やラジオ局から流出したレコードの中には、スリーブにシールやテープが貼ってあるものや、マジックやボールペンで発売日などの情報が書き込まれているものが多々あります。そのようにして膨大な量のレコードを管理していたのでしょうね。

■NAS 『Hate Me Now / Nas Is Like』 (38-79150)

NAS

side-A. Hate Me Now featuring Puff Daddy (Clean Version)

side-B. Nas Is Like (Clean Version)

 

米ヒップホップ・シーンを代表する大物ラッパー、ナズの人気盤。

 

1999年に発表された3rdアルバム『I AM…』からのシングルカット。GANG STARRのDJプレミアが手掛けた名曲「Nas Is Like」をB面に収録したUS盤7インチです。

 

個人的にも「Nas Is Like」は、数あるナズのクラシックの中で一番好きな曲。ヒップホップ史上最高傑作との呼び声高い1stアルバム『ILLMATIC』(1994年)が名盤であることは間違いありませんが、「1曲だけ」と問われたら、迷わず「Nas Is Like」と答えます。

 

リリース当時に某大型店で購入したこの7インチは、380円で販売されていました(新品ですよ!)。現在の相場をご存じの方は驚かれるかもしれませんね。

■ARTHUR VEROCAI 『Bis』 (JD10)

ARTHUR VEROCAI

side-A. Bis

side-B. Bis (Eddy meets Yannah mix)

 

数多くのブラジル人アーティストの名盤を手掛けたプロデューサー/アレンジャーとして知られるアルトゥール・ヴェロカイが、2007年に発表した3ndアルバム『ENCORE』からシングルカットされたUK盤7インチ。

 

リリース当時はCDしか発売されなかった『ENCORE』のLPが2017年に出るまで、「Bis」を聴くことができるアナログ盤は、この7インチだけでした。プレス数も少なく、今なお高値で取引されている人気盤です。

 

今年のRECORD STORE DAY限定商品として「Bis」の歌入りとインストをカップリングした7インチが発売されましたが、すでにそちらも入手することが難しいようです。買えた方はラッキーでしたね。

■SUPER JUNKY MONKEY 『R.P.G / IF』 (DQKL 7113)

SUPER JUNKY MONKEY

side-A. R.P.G (Edit ver.)

side-B. IF

最後に、僭越ながら私が選曲にかかわらせていただいた作品を紹介させてください。

2020年2月に発売されたSUPER JUNKY MONKEYのキャリア初となる7インチ。

A面「R.P.G」は1996年12月に発表された『SUPER JUNKY ALIEN』、B面「IF」は同年4月発表の『PARASITIC PEOPLE / 地球寄生人』の収録曲で、どちらも初のアナログ化です。

90年代の国内オルタナティヴロック・シーンを牽引した女性4人組のSUPER JUNKY MONKEYは、海外からの評価も高く、アルバムが全米リリースされ、ツアーも実施。米『Billboard』誌の表紙も飾っています。

実現しなかったものの、KISSやNINE INCH NAILSから全米ツアーのサポートを依頼されたことも。

「IF」には、NYハードコア界で絶大な人気を誇るSICK OF IT ALLのルー・コラーとピート・コラーがゲストヴォーカリストとして参加しています。

本作は、ソニー・ミュージックダイレクトのアナログ専門レーベルが、リクエストに基づいて限定プレスのアナログ盤を商品化する「GREAT TRACKS Order Made Vinyl」という企画から生まれた7インチです。

SUPER JUNKY MONKEYの所属事務所から「ソニーの企画で7インチを作ることになったので、メンバーと一緒に収録曲を考えてほしい」という連絡をいただいたのが2019年9月。同年7月に発足した「GREAT TRACKS Order Made Vinyl」のことはすでに知っていたので、受け付けがスタートした直後にSUPER JUNKY MONKEYの作品をリクエストしていました。

自分がリクエストしたバンドの作品がアナログ化し、選曲にもかかわらせていただいたこともあって、思い入れもひとしお。

なによりも、1999年に亡くなったヴォーカリストのMutsumi623が切望していた7インチのリリースが、遂に実現したのですから。

「GREAT TRACKS Order Made Vinyl」では、7インチだけではなくLPも商品化されているので、ぜひリクエストしてみてください。あなたの好きな作品がレコードになるかも。

執筆:五辺宏明

おまけ

コラム冒頭でご紹介させていただいた、DE LA SOULの『A Roller Skating Jam Named Saturdays』です。

是非ご視聴ください。

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